中国政府が始めた国家制定太極拳又は制定拳と呼び、伝統太極拳を伝統拳又は民間の太極拳と呼んでいる。日本ではこの制定拳が普及しているが、この制定太極拳(制定拳)について私見を述べてみたい。
●伝統太極拳は功(練功による内気の充実と力)を重視し、各伝統拳には内功法が存在するが、制定拳では内功法が存在しないかもしくは殆ど教えていない。従い、結果として功の無い人が多い。中国人はこの事を称して中身が無いという言い方をされており、小生も中国滞在中には良く耳にした。
巷間言われているのは制定拳を作る際に5流派の伝統拳のGRAND MASTER(GM)を集めて作ったがその際にGMは嘘は言わなかったが本当の事、特に秘伝等を全て明かした訳では無かった。従い、内功は秘伝に属するので明かさなかったと。又真の功夫は民間にあるという言われ方もしていた。中国語で「真功夫在民間」という。実際制定拳の先生で心ある人は自分が他所で学んだ内功なり、タントウ功なりを教えている処もある。
●1956年に簡化24式を1957年に88式を制定したが、いずれも楊式太極拳をベースとしたもので、全ての太極拳を代表するものでは無い。小生は陳式太極拳に属する人間ではあるが、楊式太極拳を評価しているし、非常に大好きな人間でもある。従い、大陸や香港から楊式太極拳の方がみえると必ず表演を所望している。ただ、これを簡化24式として最初に行う套路としてはかなり難しく適切では無いと考えている。どこが難しかと言えば、陳式太極拳では放松と緊張を繰り返す事によって放松を体得していくが、楊式では最初から全てが放松で通していく事になる。これは難度が高く殆どの日本人が出来ていない処であるし、教える側も理解できていないのではと思われる。そもそも放松(ファンソン)が単なるリラックスする事と勘違いしている人が多い。ファンソンは内気の充実、膨張を伴う、リラックスなので、ここが出来ているかどうかは出来ている人にしか分からない。従い、套路に内気と内勁が無く、見ていても感じられないという具合となる。これでは太極拳にならない。
●その後制定拳も楊式のみに偏るのはまずいと思ったのかようやく伝統各流派の招式を取り入れて48式を1979年に制定し、又競技套路として42式総合太極拳を作ったという状況ではあるが、単なる招式の寄せ集めにすぎないと思われる。各流派の太極拳の要諦及び家風は見過ごされている感が否めない。例えば楊式では身体の上下動は戒められているが、陳式では戒められていない。フィロソフィーが違うのでそれらをごっちゃにして教える事に無理がある。制定拳を行っているものでこれら各流派の要諦を理解している人にお目にかかった事が無い。所詮は楊式をベースに各流派の招式を紹介している程度のものではないかと言われても仕方が無い。ただ中国では生徒を明確に2種類に分け、一般の生徒を「学生」、拝師の生徒を「徒弟」と言い重要な内容は「徒弟」にしか教えないので制定拳を学んでいる人に各流派のGMが要諦を伝えないのは仕方の無い事とも言える。
●ここまでどちらかと言えば制定拳の短所を挙げて来たが、長所も言わせて貰えば、なんと言っても太極拳を普及したという功績は否めない。この簡化24式があるので、太極拳及び太極拳らしきものが広まったという事は言えると思う。特に日本人には規格がきちっとしている制定拳は取り組み易いと言えるし、日本人に合っていると思う。もし簡化24式に然るべき勁が出ていなくても、太極拳に入る一つの縁を得たとは言えると思う。
●又48式や42式を作ったので他の太極拳も紹介する役割も担ってきた。この太極拳を導入窓口として各伝統拳に入った人もおられるし、今後のそのような役割は期待できる。その意味では制定拳の役割は大きかったと言えるでしょう。
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