2001年6月16日土曜日

真功夫Ⅰ

 中国の北京青年報でかつて主として伝統式太極拳に焦点を当て、中国太極拳の真功夫(修行による真の威力)は失われてしまうのか?との記事があったのでここに翻訳の上掲載し、皆さんの功夫を考える一助にしたいと思います。

中国太極拳の真功夫は失伝してしまうのか?
(北京青年報1998年11月13日より抜粋)

「太極拳は中華民族が人類に対し行なった5番目に大きな貢献である」

 太極拳は中国の国粋であり健康、護身、修身が一体のものである。アメリカの宇宙飛行士も太極拳を空中での重要な健康維持方法と見なしている。第5回中国永年国際太極拳聯誼会組織委員会秘書長のJU金禄のは以下の様に述べている。「太極拳は中華民族が人類に対し行なった5番目に大きい貢献である。」解放以後国家体育委員会は専門家を組織し、簡化太極拳(24式太極拳)、32式太極剣、48式太極拳、88式太極拳を編纂した。又1989年には太極拳競技套路、太極剣競技套路、楊、陳、呉、孫、の4式太極拳の競技套路を編纂し、太極拳の普及及び試合の規格化に意義ある仕事をした。然し乍ら中国の民間には数百年来伝わって来ている各流派別の伝統太極拳が存在する。正に国家体育総局武術運動管理センター主任李傑氏が言われるように「競技試合と伝統套路は別物であり、太極拳の真功夫はやはり民間(伝統太極拳の事)にある」

 今月16日は鄧小平の題字「太極拳好(太極拳はすばらしい)」の20周年記念日です。中国の伝統太極拳の発展は如何にあるべきか。最近弊新聞社の記者がこの問題を携え中国主要伝統太極拳流派の下記7名の名家を訪問しました。
  • 孫式太極拳の創始者孫禄堂の娘、北京孫式太極拳研究会会長孫剣雲(85歳)
  • 楊式太極拳の創始者楊露禅の曾孫、邯鄲市楊式太極拳協会会長楊振基(77歳)
  • 北京陳式太極拳研究会会長馮志強(70歳)
  • 武式太極拳第5代伝人、<武魂>雑誌編集委員呉文翰(70歳)
  • 北京呉式太極拳研究会会長李秉慈(69歳)
  • 趙堡太極拳第15代伝人王海洲(53歳)
  • 武当道教武術院院長游玄徳
記:
現在流行している制定太極拳の24式、48式及びその他競技用套路と伝統套路との違いは何でしょうか?
呉:
制定24式は伝統套路を簡略化したもので、大体一週間で学べる。伝統套路と基本的に形は同じではあるが、内在しているものは多くが異なる(内在的東西很多是不同的)。24式は大体において楊澄甫の楊式太極拳を基にして編纂したのものであり、技撃を考慮せず容易に学べる事を主眼に編纂されている。即ち目的は真功夫を教えるのが目的ではない。一週間で真功夫が学べるなら神業と言わざるを得ない。競技用套路に関しては武術選手は健康を目的としてではなく、又技術を目的としてでもなく表演(EXHIBITION)、即ち動作がきれいという事を目的としている。例えば左右の足上げの時足を大変高く上げる、鳥の羽根の如くあげる。昔の老武術家は一人としてこのように足を高くあげる人はいなかった。楊澄甫でもその様に足を上げる事ができるようには鍛えられなかった(太極拳の技術上から見れば足を必要以上に上げる事は容易に自身の平衡をくずす事になる)。
「あなた達は以後拳を学ぼうとするなら日本に行き後藤氏につきなさい。」

記:
あなたの太極拳研究会はどの様な活動があるのですか?
孫:
別の研究会が出来た時に錦の旗を贈る以外に特に活動はありませんね。
李:
研究会といえば聞こえは良いが実際は活動をしていないのが現状。この12年来毎年多くて年に2-3回の活動をしている程度。
記:
あなたの生徒さんは何人くらいですか?あなたはあなたの先生の功夫を全て引き継いだとお思いですか?又あなたの生徒さんはあなたの功夫を全て引き継いだとお思いですか?
孫:
入門した生徒は約100名です。太極拳を職業としているのはおらず全てアマチュアです。
私の弟子の中で日本の後藤氏は一番良いと思います(今年後藤氏が中国に拳を学びに来た時孫剣雲老師は彼女の中国の弟子達に「今後あなた達が拳を学ぼうとするなら日本に行って後藤につきなさい」と言ったとの事)。研究会が何人いるかはわからない。今、多くの人は私の所まで来ないから、よくわからない。私は老先生(孫禄堂)の功夫をほんの少し、十分の一、二を引き継いだが私の生徒で私が得たものを全て引き継いだものはいない。
呉:
本当に私の弟子と言えるのは10人に満たない。私と私の先生との差は非常に大きい。以前は拳を学ぶ者は功夫を大事にしたものだ。又、技撃を中心に据え、私の先生は相手を一丈程ぶっ飛ばす等全く問題がなかった。原因は彼は練習する時間があった。彼は御母堂がなくなった時は2-3日太極拳を練習しなかったが、結婚の時も太極拳を練習していたと言われている。私の弟子で私の太極拳の全てを引き継いだものはいない。私の半分を引き継げば立派と言えるでしょう。
李:
生徒はそんなに多くはいません。ずっと続けているのはせいぜい100人でしょう。実際上国家が編纂した制定太極拳を練習している人が多く、伝統式太極拳を真剣に練習している人は多くいません。このように労多い伝統式を練習する人はいないでしょう。音楽があれば又簡単で良いでしょう。皆はちょっと練習してみてそれで十分でしょう。但し、本当に功夫を練るのはいないでしょう。中国武術は見た目は非常に普及しているように見えるが実際上その技術がすばらしいというのは殆どいないでしょう。私の先生の功夫を私は引き継いでいません。そんなにたくさん引き継げないでしょう。私の生徒で私の全てを引き継いだ者はいますがその人数は非常に少ないものです。
馮:
私が教えた生徒は数万人にのぼるでしょう。拳理が明晰で拳架が正確で技撃に精通していて初めて全面的に継承したと言えるでしょう。私の先生の功夫を全て継承すると言うのは実際上不可能でしょう。彼との理解も違うし、学ぶ時間も違い、学ぶ深さも違います。私の生徒は私のものを大部分引き継いだと言えるでしょう。
楊:
私は十数年来無料で拳を教えています。約7千人強の人達を教えて来ました。私は私の父の動作を変更せずにきました。私は彼の功夫及び彼の問題点を説明できます。但し、説明できる事と出来る事は違います。例えばこの手の技撃はどの様に使うか説明できますが、それが実戦でだせるかどうかは別の問題です。私の生徒で私の拳を全て継承しているものはいません。私は生徒に推手を教えた事がありません。練功している人間の功力がそのレベルに至っていないので推手を教える事はできないという事です。
游:
武当太極拳は過去は秘伝の太極拳と呼ばれていたものでした。私は門弟のみ教え門外不出を旨としていました。それは規則、慣しと言って良いでしょう。又は歴史や文化に対する一種の責任かもしれません。というのはもしあなたがある人に伝えたとして、それを受け継いだ多くの人達が大切にしなければ目もあてられないでしょう。祖先に対しても尊重しない態度と言えるでしょう。だから優秀な人を選んで伝えるべきなのです。現在私が経営している武術学校は80-90人の生徒がいます。
王:
私の弟子は少なくとも70-80人います。趙堡太極拳代々単伝され、村から出る事はありません。真実の物は全く伝える事ができません。息子の嫁には伝えるが、娘には伝えません私は趙堡太極拳の本を一冊出しましたが、その事に対する抵抗は大変なものでした。私の先生の会得したものを私は未だ完全に学び取っていません。八分の一も学び取っていないでしょう。但し、私の弟子の中には私より出来の良いのがいます。