2002年8月24日土曜日

松(ソン)と軟(ルアン)

 私は主として中国で太極拳を覚えあまり日本の太極拳を知らないけれど、日本と中国を比べると功夫が上がる速度が中国の方がかなり速いとの印象を持っている。北京の地壇公園にある馮老師の太極拳の活動センターには多くの一般生徒が練習しているが2年もするとかなりの功夫を身に着けている人を多く見かける。一方日本では功夫の上がる速度がかなり遅いように思われる。その原因の一つがここに挙げる松(ソンといって脱力した状態で放松ともいう)と軟(ルアンといってグニャグニャとやわらかい)の問題ではないかと見ている。即ち日本人の太極拳はくにゃくにゃして「軟」ではあるが、必ずしも「松」になっていない人が多いような気がしている。従い見ていると「軟」ではあるが未だ硬い(言葉の矛盾ではあるが)、即ち「松」になるべき箇所が「松」になっていないのではないかと思える。私の錯覚かもしれないがこれが功夫が上がる速度に影響しているのではないかと思われる。私の友人でやはり台湾で太極拳を習い日本に戻ってきたSさんがいますが、ある時Sさんが日本の太極拳は放松を言い過ぎると言っていた事があります。私はその時はその真意を掴みかねていました。即ち「放松」は非常に大事で、いくら強調してもし過ぎる事はないと思っていたからです。多くの人が「放松」が十分でないために築気が行われず混元気がなかなか充実して来なかったりするものです。しかし最近になってSさんの意図は「放松」を強調し過ぎるから「軟」となっているだけで拳法としての威力が感じられないという事が言いたかったんだなと一人納得している次第です。この両者は似ているようで全く異なり、多くの人が「松」のつもりが「軟」になっており、内気の充実、内気の膨張感が得られない状態に陥っているのではないでしょうか。

 偉そうな事を言っていますが、斯く言う私も「松」が十分でなく長い間苦労しました。老師と同じように套路を練っているつもりが、師兄弟からはお前のは太極拳じゃないとよく言われました。動きは同じなのにどうして太極拳と違うと言われるのか全く理由がわかりませんでした。今思えば、当時は放松が十分でなく、且つ勁も違っていた(勁がでていなかった)のでしょう。この辺が太極拳の難しい処です。外見が同じに見えても中身が全く違うという事があり得る訳です。それ故きちっとした老師に付いて習う必要があるのです。きちっとした老師とは中味のある太極拳を理解している人です。さもないと全く違う方向に走っているという事になりかねないのではないでしょうか?日本で習う場合多くの人がきちっとした老師に付いていない為かかる過ちを犯しているケースが多いのではないでしょうか。特に習い始める最初の頃が非常に大事だと思います。この習い初めの情況により、それ以後の上達の速度がある程度きまるような気がしています。